安全
2020年の交通死者数(24時間)は前年比11.7%減の2,839人と警察庁が統計を開始した1948年以来最少となりました。しかし、内閣府の「交通事故の被害・損失の経済分析に関する調査(2017年3月)」によると、交通事故による経済的損失は14兆7,600億円と試算されており、依然として交通事故による被害は甚大であると言えます。こうした状況を踏まえて作成された第11次交通安全基本計画と、それを受けて取りまとめられた「交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会報告書(2021年6月)」において、死者数の新たな削減目標に加え、新たな指標として重傷者数の削減目標が設定されました。
JARIにおいても、それらの視点を考慮し、安全対策に向けた試験・研究を進め、交通事故死傷者数および交通事故数の削減に貢献していきたいと考えています。
JARIでは交通事故統計を用いた各種分析、実際の事故を実車で再現する衝突実験、コンピューター上で再現する実験など、事故時の状況を調査しています。特に乗員や歩行者をコンピューター上で表現した人体モデルを使った安全研究は得意なところであり、安全性評価法および評価ツールの開発において多くの実績を残しています。この他に社会問題化している高齢ドライバーによる事故の要因やバスの運行安全、事故自動通報に関する研究にも精力的に取り組んでいます。
安全評価事業においては、安全研究を通じて得られた知見を活かし、自動車アセスメント事業における、フルラップ前面衝突試験、オフセット前面衝突試験、側面衝突試験、衝突後の感電保護性能、後面衝突時の頚部保護性能、歩行者頭部保護性能、歩行者脚部保護性能、チャイルドシート安全性能の各試験を担当しています。 また、これら従来の衝突安全研究に加え、自動走行システムや運転支援装置の安全性評価、ならびに、ロボット等移動体の安全性評価も実施しています。
車対車の前面衝突実験
Car-to-car frontal collsion test
後面衝突時の頸部傷害メカニズムに関するシミュレーション解析
Simulation analysis on neck injury mechanism during rear-end collision
最近では、自動運転技術に大きな期待が寄せられており、国内外で産官学の連携による、様々な取り組みが急速に進展しています。 自動運転技術分野の研究として、交通実態に基づく、自動運転車が走行中に生じる交通外乱(他車からの割込み、歩行者飛び出し、など) の安全性の評価方法の検討や、自動走行システムが性能限界を超えた走行環境になった場合・システムに失陥が生じた場合のドライバへの 運転交代について、ドライバの覚醒度の検知方法や、覚醒度や走行場面に応じた交代方法、システム状態をドライバに伝えるHMIなど、 運転交代を円滑に行う研究等も行っています。
AEBS(Autonomous Emergency Braking System:衝突被害軽減制動制御装置)に代表される先進安全技術の性能評価を 自動車アセスメント事業を2014年度より開始、これまでに、対車両および対歩行者(夜間を含む)のAEBS、車線逸脱抑制装置、 ペダル踏み間違い時加速抑制装置等の評価試験が実施しています。 2022年度からの対自転車AEBS評価、本格実施に向けた準備のほか、今後想定される、様々な装置が運転に介入した場合のドライバの 反応についても研究を行っています。
従来のドライビング・シミュレータに加え、より現実の運転感覚に近いJARI-ARV(Augmented Reality Vehicle:拡張現実実験車) を開発、さらに、自動運転技術の開発・評価に活用可能な自動運転評価拠点「Jtown」を運用しています。 運転支援装置や自動運転車が普及した際の事故低減効果の予測が可能なシミュレーションソフトの開発を行っています。 ロボット等移動体については、ドローンの安全性評価や配送ロボットのリスクアセスメントに関する研究を行っています。 また、「ロボット安全試験センター」にて、走行試験、EMC(電磁両立性)試験、対人安全性試験、強度試験など開発に必要な一連の試験が実施可能です。
これらのほか、タイヤ試験装置を用いた転がり抵抗試験、テストコースでの制動試験など、 自動車に関する基本的な性能に関する各種試験など、自動車の予防安全に関する様々な試験・研究に対応しております。
拡張現実実験車(JARI-ARV)による実験
Test using augmented reality vehicle (JARI-ARV)
全方位視野ドライビングシミュレータ自動運転実験風景(濃霧高速道路)
Test on omni-directional viewing driving simulator for automated driving (dense fog highway)
「衝突安全」に関わる試験業務では、乗用車やバス・トラックをはじめ、二輪車や自転車など、様々な車両の衝突試験や、チャイルド・シート評価や追突時の保護性能評価などの台車(スレッド)試験、歩行者保護のための頭部や脚部のインパクター試験などを担当しています。さらに、部材やコンポーネントの衝撃試験なども行っています。関連設備としては、衝突実験場、HYGEスレッド衝撃試験装置、歩行者保護試験装置や落錘衝撃試験装置などです。
試験車両を所定の速度で牽引し、コンクリート壁をはじめとした各種バリア(平面、斜め、オフセット、ポール)へ衝突させる前面衝突試験の他、側面衝突や後面衝突、二輪車、自転車対車、歩行者対車などの事故を再現させるための試験も行なっています。また、特殊試験場を利用した道路構造物の衝突評価試験等も実施しています。
台車衝撃試験は、気圧式の衝撃試験装置を利用して台車上に設置した供試品に衝撃を与えて本体の強度や安全性能を評価する試験です。当研究所における主な使用状況は、チャイルドシートの安全性評価試験、自動車用シートの鞭打ち低減効果の評価試験等を実施しています。
車体の構成部品単位で衝突安全性を評価するコンポーネント試験があります。この試験には、実際に衝撃を与える動的試験と一定荷重をかけた場合のひずみや変形の度合いを確認する静的試験に大別されます。当研究所では、前者の動的試験を多く実施しており、自動車のバンパ、ボンネットに対して、歩行者が衝突した場合の安全性を評価する試験のニーズが高まっています。
「予防安全」に関わる試験業務では、「走る」「曲がる」「止まる」のための自動車の基本性能の評価であり、ブレーキ試験、視界・灯火器、タイヤ試験など、また、車両運動から運転支援のシステムまで、様々な試験実施に対応しています。関連設備としては、模擬市街路、ドライビングシミュレータやタイヤ試験装置などです。
自動車の基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」といった車両運動に関連する評価試験や自動車の登録に必要なTRIASの制動試験、ステアリングロボットを使用した機械入力による横滑り防止装置の評価試験、さらにタイヤに関連した様々なタイヤ特性試験も実施しています。
模擬市街路やドライビングシミュレータを使用した事故の再現実験を行い、事故メカニズムの解明、対策を行っています。また小学生を対象に道路交通の危険場所を調べ、危険マップの作成、実車を用いたり、実験を伴う体験型の交通安全教育をボランティアの皆様の協力を得て実施しています。
前記の各種試験を実施する上で必要な加速度計や荷重計などのセンサ類、データを記録するレコーダ類、そしてダミーと称される人体模型等の維持管理、校正といった面にも力を入れています。同時に、各種計測の精度向上や関連するソフトウェアの開発も行っています。
歩行者頭部保護衝撃試験の一例
小学校での安全教育実施風景