JARIでは、「衝突安全」に関する調査・研究に加えて、交通事故死傷者数の更なる低減に貢献するために、研究領域の拡大に取り組んでいます。具体的には、(1)実際に起こっている交通事故の状況、および、人体傷害の状況などを分析すると共に、(2)事故による衝撃力等と人体傷害との関係を解明するための研究(バイオメカニクスの研究)に取組み、さらに、(3)それらの研究成果から導かれる有効な評価試験方法と対策の検討などを行っています。
交通事故の分析に関わる研究
ドライブレコーダや関係機関で収集されている事故データ等を総合的に分析し、事故の実態把握、発生メカニズムの研究、ならびに、各種安全対策の検討と効果の推定などを行っているほか、事故自動通報システムの開発や事故後の乗員救出性向上に関わる検討なども行っています。
ドライブレコーダ映像の一例
〔解説:(1)自車が優先側から交差点へ接近 (2)交差点侵入時に非優先側の車両を発見 (3),(4)お互いの急減速によって衝突を回避 なお、この交差点の隅の見通しが整備されていたため(2)の時点でお互いが見えていたが、もし整備されていなかった場合は(3)の時点でやっと見えたことになる。この瞬間に危険を認知しても回避が間に合わず衝突していた可能性が高い。このように、発生過程の分析と共に交通環境との関係を明確に把握することができる。〕
バイオメカニクスの研究
国内外の研究機関等との連携により得られた人体の衝撃耐性に関連するデータを元に、人体を模擬したコンピュータモデルを開発し、乗員および歩行者の傷害メカニズムの解明、傷害指標の開発と評価などに取り組んでいます。その一例として、頭部外傷に関する研究では、モデルを用いた実験再現シミュレーションを実施し、外力と損傷程度との対応だけでなく、損傷程度におよぼす脳細胞レベルの時間的変化を追求することにより脳損傷メカニズムの解明についても検討を行っています。さらには、自動車の「予防安全」と「衝突安全」の融合に向けた取組みとして、衝突直前(プリクラッシュ)における乗員の回避行動とその際の挙動を考慮した保護装置の開発、評価などについても検討を行っています。

胸郭シミュレーションモデル

ラット頭部を模擬したコンピュータモデル

ラット頭部モデルを用いた脳実質の損傷解析
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ブレーキ制動を伴う衝突試験の状況
(プリクラッシュシートベルトの
評価手法に関する研究の一例)
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評価試験方法の検討
自動車の前面、側面、後面などの衝突保護性能評価、歩行者保護、二輪車乗員保護、チャイルドシート評価などの各種試験方法の検討をはじめ、新たな衝突試験用ダミーや試験用衝撃子(インパクタ)の開発や評価に関わる研究を関係機関と連携して行い、国際基準調和活動や試験法の標準化活動に貢献しています。さらに、自動車の衝突安全評価技術を応用して開発した転倒時などに大切な頭を守るための帽子「abonet+JARI」は、数多くのメディアで取り上げられ、購入していただいた多くの方から高い評価をいただいています。なお、今年度は、つくば市葛城小学校の全児童にabonet+JARIを配布し、さらなる改良に向けたモニター調査を実施しております。

実車衝突試験状況の一例
(対固定ポール側面衝突試験)
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衝突試験用ダミーの
評価試験状況の一例
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衝突安全技術を応用して開発した
頭部保護帽"abonet+JARI"
(特別仕様)

小学校での"abonet+JARI"配布時
の児童の様子
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バリア衝突、車両対車両(Car to Car)衝突をはじめ、各種衝突試験に対応
新衝突実験場は多様な衝突安全評価のニーズに対応すべく2005年4月に完成しました。この衝突実験場では、4ヶ所の衝突エリアを持ち、乗用車、二輪車、自転車、大型車などの衝突試験をはじめ、ムービング・デフォーマブル・バリア(MDB)などを用いた衝突試験および交通事故の再現試験などを行うことができます。

仕様
敷地 |
最長南北約600m、東西約300m(建築面積:約28000m2) |
駆動装置 |
2300kW ACインバーターモーター |
最高衝突速度 |
150km/h(車両重量2.8トン)、80km/h(車両重量25トン) |
コンクリート固定バリア |
普通車、大型車用の2種 |
乗用車用バリアにおいて、衝突試験の際に車両下面の撮影が可能になりました。
主な試験項目
- 前面衝突試験:フルラップ、オフセット、偏角バリア、 ポール、アンダーライドなど
- 側面衝突試験:ムービングバリア、ポールなど
- 車両対車両衝突試験:前面(フルラップ、オフセット)や側面衝突試験、追突試験、乗用車対二輪車衝突試験など
- 歩行者対車両試験、対道路付帯設備試験など

衝突時の加速度や衝撃を台上で再現
この衝撃試験装置(HYGE)では車両の衝突現象を台上でシミュレートすることができます。
1975年に完成したこの装置は、衝撃力を発生するジェネレータ及び試験車に相当する台車(スレッド)などで構成されており、スレッドを高圧で打ち出すことにより衝撃を加えるしくみになっております。
仕様
最大加速度 |
50G(持続時間97ms、最高速度106km/h)
供試品560kg
24G(持続時間138ms、最高速度74km/h)
供試品2300kg |
最大供試重量 |
2300kgf |
最大推力 |
102ton |
衝撃波形 |
半正弦波および台形波、三角波等 |
自動車安全シンポジウム開催概要
自動車安全シンポジウムを、国土交通省主催で毎年開催しております。