エンジンの高効率化、低公害化を図るために、数ミリ秒~数十ミリ秒で完結する複雑な現象をいかに制御するかが鍵となります。さらに、燃焼期間中の化学種の濃度など、時空間的な推移を把握することが必須となります。
JARIでは、30年ほど前から燃焼可視化実験に取り組んでいます。燃焼可視化実験は、「可視化エンジン」と呼ばれる特殊なエンジンを用いて、燃焼の様子を直接観察します。可視化実験は、燃焼の様子を直感的に理解でき、燃焼改善の基本的指針を提供してくれます。これにより、ディーゼルエンジンにおいて現在は広く利用されている高圧燃料噴射による燃焼改善効果や早期燃料噴射による予混合ディーゼル燃焼の特性などを明らかにしてきました。
この可視化実験は定量的な計測を行うことが難しく、また欲しい情報をすべて同時に計測できるとは限りません。その欠点を補うべく、最近では燃料の微粒化、蒸発および燃焼反応を伴う多次元流体シミュレーションを併用しています。これにより計算負荷が高いものの、近年のコンピュータ能力の向上により、かなり詳細な現象も含めた解析が可能となっています。現在は、詳細な燃焼反応モデルと先進的な乱流モデルを導入し、より高精度な予測が可能なシミュレーションコードの開発に着手しています。

可視化エンジンを用いたディーゼルエンジン筒内の燃焼撮影

ディーゼル噴霧火炎のシミュレーション(二次元断面図)
自動車技術や燃料技術の進歩に伴い、自動車から排出される既知の有害物質は低濃度化、多様化しており、これまで以上に、高感度な多成分の分析技術開発が必要とされています。
これらに対応するため、例えば包括的二次元ガスクロマトグラフィを用いた有機成分の多成分同時分析法や分析時間の短い迅速分析法、環境にやさしい分析法の開発を行っています。
さらに、健康リスクの観点からナノ・メートルサイズの超微小粒子が注目されています。そこで、リアルワールドの排出状況を実験室レベルで再現できる希釈装置(PPFDII)を開発し、微分型粒径分布測定装置(DMS)による計測を実施して、自動車からの超微小粒子のリアルタイム排出実態把握を行っています。
また、粒子構成成分の粒径分布は健康リスクや発生源推定に重要であることから、エアロゾル質量分析計(AMS)やレーザーイオン化質量分析法を用いてリアルタイムでの粒子組成測定を可能にし、粒子成分の実態解明を進めています。
微小粒子の問題はテールパイプ排出直後の状態解明で終わりではありません。大気に放出された自動車排出ガスの一部はさまざまな化学反応を繰り返し二次生成有機エアロゾル等の別な物質へと変化するため、これらの大気反応の研究も進めています。さらに種々の削減対策を効果的に行う上では、それぞれの化合物の寄与を正確に把握することが必要となります。そこで、ベンゼンなど通常では発生源の識別が困難な物質を安定同位体比分析により、発生源を特定する研究も進めています。
その他、車室内の揮発性有機化合物(VOC)を計測するための設備を設置し、試験法の開発を行うなど、行政や業界の指針策定等に大きく活かされています。
道路交通騒音は依然として深刻な状態が続いています。そのため、過去数回にわたって、自動車単体騒音の規制が強化されてきましたが、対策の効果は現れていません。そこで、規制をより効果的なものとするために、国際的に新たな試験法の開発が進められています。さらには、自動車単体騒音の低減のみならず、道路構造や沿道環境の改善、交通流制御など総合的な対策が検討されています。
自動車から発生する騒音を効果的に低減するには、一般道路の走行実態を反映した試験法に基づいて評価することが重要です。そのため、効果的な試験法の開発を目指して、各国が共同で作業を進めています。JARIでは、各種の試験データや解析結果を国際標準化機構(ISO)や国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム騒音専門分科会(UN/ECE/WP29/GRB)などに提出し、国際基準調和活動に貢献しています。

総合的な騒音対策を実施するためには、対策の効果を事前に予測しておくことが重要です。JARIでは、一般道路における交通流を考慮した道路交通騒音のシミュレーション手法を開発し、各種対策による騒音低減効果の予測を行っています。また、交通流のシミュレーション手法と音圧波形の合成手法を組み合わせた道路交通騒音のオーラルシミュレーション手法を用いて主観評価の検討を行い、効果的な騒音対策を目指しています。
道路交通騒音のシミュレーション

近年の自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や浮遊粒子状物質(SPM)については、改善傾向が見られる一方、排出ガス成分が大気中での化学反応を経て変化・生成される二酸化窒素(NO2)は依然として改善されていません。
このような化学反応など大気中での汚染物質の挙動を考慮し、排出ガス低減による大気環境への効果を総合的に評価するためには、高度な大気環境シミュレーションを利用することが有効です。
JARIでは、経済産業省の支援を受け、財団法人石油産業活性化センターが実施している石油業界・自動車業界の共同研究プロジェクトであるJapan Clean Air Program(JCAP)に、1997年度より積極的に参加してきました。さらに2007年度よりJCAPの後継プロジェクトであるJapan Auto-Oil Program (JATOP)に継続的に参加しており、高度な大気環境シミュレーションの開発およびシミュレーション技術を用いた将来濃度推計などの実施を担当してきました。

高度な大気環境シミュレーションには、入力データとして詳細な自動車排出量データの利用が欠かせませんが、JARIでは、車種・車速・加速度・積載量・道路勾配による自動車排出ガスへの影響などを詳細に考慮することが可能な、世界でも有数の自動車排出量推計モデルやデータベースの構築に大きく貢献してきました。これらの研究成果や技術は、国や自動車業界の環境施策の方向性を決定する際の定量的データとして活用されています。
今後JARIでは、これまでに培ってきた大気環境評価に関する技術や知見の活用をはかり、将来のより良い大気環境を目指し、その目標を達成するために効果的な施策に資するデータを提供していきます。

これまでに国内市販ガソリン対策として、ベンゼン含有量の低減(1%以下)や蒸発ガスの削減、低硫黄化などが実施されてきました。また、2004年からエタノールやエチル・ターシャリー・ブチル・エーテル(ETBE)を混合したガソリンの対応がなされ、 2007年には、首都圏でETBE混合ガソリンの市販が開始されました。
国内市販軽油対策では、ガソリンと同様に低硫黄化がなされました。さらに、植物油や廃食油から作られる脂肪酸メチルエステル(FAME)については、軽油への5 wt%以下の混合も認められるなど、その性状は変化しています。
JARIでは、1982年から26年間継続して夏と冬の年2回のサンプリングによる自動車用燃料の性状調査やFAME混合軽油の酸化安定度試験や酸価測定など、バイオ燃料への取り組みを進めています。
このように、国内市販自動車用燃料を分析することで適切な燃料が供給されていることを確認し、市場の燃料性状の実態を把握するとともに、エタノールやFAME混合軽油の規格制定に際して適切な規格作りの根拠となる試験データを提出するなど、JARIでは自動車用燃料の品質を確保する上で大きな役割を果たしています。
JARIでは、約30年前より、自動車排出ガスが健康に及ぼす影響の調査研究を進めてきました。1980年代、ディーゼルエンジン排出ガス(以下、DE)の発がん性の議論が高まり、JARIでは大規模な発がん性試験を実施しました。その結果、現実的な大気粒子濃度レベルのDEではがんの発症を亢進しないことを世界に先駆け明らかにしました。その後も、1990年代には気管支炎研究、花粉症研究を実施し、これらの成果は世界保健機関(WHO)、米国環境保護局(US EPA)の報告書などに引用されています。

2000年頃から、大気中のPM2.5(粒径2.5μm以下の微小粒子)による循環器系への影響や環境ホルモンによる生殖器への悪影響について大きな関心が集まるようになってきました。このような背景のもと、JARIでは2000年から2004年の5ヵ年にわたり、DEと循環器疾患および環境ホルモン様作用に関する研究、2004年から2006年の3ヵ年にわたりDEと喘息に関する研究に取り組んできました。
これらの結果から、DEは喘息や呼吸器の炎症に対する明らかな増悪作用、生殖器への悪影響、さらには心電図異常や血栓などの循環器系への重篤な影響を引き起こすとは限らないことが分かりました。これら貴重な研究成果は、学会発表や国内外の研究者・行政官との交流を通して世界に発信しています。
![]() 喘息影響評価(肺機能解析装置) |
![]() 循環器影響評価(生理信号送信器埋め込み動物と受信装置) |

JARIでは、自動車排出ガスやその成分が及ぼす生体影響を遺伝子レベルで効率的に解析するため、2001年からDNAマイクロアレイ法を活用しています。現在、ヒトの培養細胞に対する自動車排出ガス関連化学物質の影響について細胞毒性試験や遺伝子解析手法により評価し、in vitro健康影響データベースの構築を目指しています。これにより、簡便な毒性スクリーニングを可能とし、大規模な動物暴露実験の効率化を図ります。
地球温暖化を防止するため、温室効果ガスの大幅な低減が広く求められています。
Intelligent Transport Systems (ITS)の導入によって、信号制御の高度化による交通の円滑化、最適な経路誘導による走行時間の短縮、隊列走行による空気抵抗の低減など、多くのCO2排出量低減が期待され、実用化が推進されていますが、そのような方策が導入された場合、実際の交通状況においてCO2排出量がどの程度削減されるのか、不明な点が少なくありません。
そのため、JARIでは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のエネルギーITS推進事業において、大学、他の研究所と共に、ITSが導入された場合のCO2排出量削減効果の評価手法の確立を目指した研究を実施しています。交通流推計の信頼性確保、プローブカー情報の利用技術の確立、車両の走行挙動とCO2排出量の関係の正確なモデル化、計算に使用するデータベースの構築、諸外国との評価方法の共通化など幅広い分野で外部研究機関との役割分担を行いつつ研究を進めています。
今後、JARIでは、これらの知見を活かした技術・データを活用し、CO2排出量・燃料消費量のより少ない自動車社会の実現を目指したITS技術活用の研究を推進していきます。
