水素のはなし第9回 水素のつくりかた

水素はそのままの形では地球上に存在していませんから、燃料電池に使うためには、何らかの方法でまとまった量を人工的に作り出さなければなりません。小学校の理科の実験では希塩酸に亜鉛を入れて水素を発生させていましたが、これは短時間に、大量に、低コストで作るのには適した方法ではありません。ここでは実際に現在行なわれている、水素の作り方を紹介しましょう。

化石燃料から作る方法

現在主流となっているのが、天然ガスや石油(ガソリン、灯油、ナフサ)といった化石燃料から水素を取り出す方法です。「短時間に、大量に、低コストで」製造でき、エネルギー効率も良いのがメリットですが、枯渇していく化石燃料を使い、製造過程では二酸化炭素も排出します。本格的な水素社会が実現するころには、もっとクリーンでなおかつ高効率な製造法が確立していることが期待され、この方法はそれまでの橋渡し的な技術として稼働していくことになるでしょう。

■水蒸気改質

大規模に、安価で製造が行なえるとして、現在世界中で最もポピュラーな方法です。天然ガスと石油燃料、いずれを原料にした場合も、高温下で水蒸気と反応させることで水素や一酸化炭素を含むガスが発生し、これを『水蒸気改質』と呼びます。改質ができたら、PSA(圧力変動吸着分離法)という過程で他の物質と分離し、水素だけを取り出します。

ただ、この方法は確かに効率が良いのですが、反応を継続させるために外部から常に熱を送り続ける必要があることと、反応が始まるまで多少時間がかかるという欠点があります。

実際の水素ステーションでは、横浜・大黒で脱硫ガソリンを原料に、横浜・旭ではナフサ、千住ではLPG(液化石油ガス)、青梅では天然ガス、市原では灯油を使ってそれぞれ水素を製造しています。

■部分酸化改質

燃料に空気を混合して燃焼させ、水素と一酸化炭素を生成する方法です。完全に燃焼してしまわないように、酸素が少ない状態で反応させることから、『部分酸化改質』と呼ばれます。水蒸気改質よりも水素の生成量は少なく、効率は劣りますが、外部から熱を加える必要がないことと、反応が始まるまでの時間が短いことがメリットです。

また、水蒸気改質と部分酸化改質のメリットをバランスよく組み合わせた、『併用改質』と呼ばれる方法もあります。

■石炭から作る方法

正確には、石炭を蒸し焼きにした燃料であるコークスから作ります。コークスは燃焼時の発熱量が高く、高温を得ることができるため、製鉄所などで使われている燃料です。コークスを製造する際、COG(コークス炉ガス)というガスが発生します。このCOGには55%もの水素が含まれており、硫黄分やタールを取り除いた後、PSAで水素だけを取り出します。

ただしこの方法、あくまで主目的はコークスの製造であって、水素は副次的に得られるもの。製鉄所でなければ作れないわけですから、効率などは他の方法と比べられるものではないかもしれません。ただし、工業用のため大量に作られる点はメリットですし、せっかくのエネルギーを無駄にしないという点からも有意義な取組みと言えます。

実際にセントレア水素ステーションではサブ的にこのコークスからの副次生成水素が製鉄所から運ばれて使われていますし、有明水素ステーションでは、より輸送効率の高い液体水素の形で搬送され、水素ステーション内で気体化して充填されています。

水から作る方法

燃料電池の原理は、水素と酸素を反応させて電気を取り出すことですが、逆に、電気を使えば水から水素と酸素を取り出すことができます。それを『水の電気分解』と呼びます。

水素はそのままの形で地球上に存在していませんが、水ならば豊富にあります。また、電気分解による製造過程に限れば、現在主流となっている化石燃料から作る方法と違って二酸化炭素も出ませんから、実にクリーンで理想的な方法と言えます。

しかし、電気分解に必要となる電力は、今の段階ではやはり化石燃料による火力発電で得られた電力を使うことになります。それであれば、最初から化石燃料を改質して水素を作った方が効率は良いので、水の電気分解で水素を作る方法は現在のところ主流ではないわけです(すべてを原子力発電による電力でまかなったとしても、「短時間に、大量に、低コストで」という面で見た場合に、やはり今の段階では効率的ではないのです)。ちなみに相模原水素ステーションでは、この方式で製造しています。

化石燃料というのはいつか枯渇するものですから、いずれは太陽光や風力といった自然エネルギーによる電力で水の電気分解を行い、そこで得られた水素を使って車を動かしたり、各家庭に供給していくようになるのが理想的なのは間違いありません。

その他の方法

■メタノール/エタノール改質

メタノール(メチルアルコール)やエタノール(エチルアルコール)を改質して水素を作ります。メタノールやエタノールと水を蒸発させ、触媒を使って反応させることで、発生した水素を分離します。化石燃料よりも安全性が高く、また、水素製造時の反応温度も低く抑えられるのが特徴です。川崎水素ステーションは世界初のメタノール改質方式による水素供給設備です。

また、昨今注目を集めている、植物や生ゴミなどから生まれたメタンガス、エタノールなど、いわゆるバイオマス燃料を原料とし、改質を行なう方法も、よりクリーンなエネルギーを目指して研究が進められています。