水素のはなし第4回 水素社会の実現へ向けて

開発が進む「燃料電池自動車」。この燃料電池自動車が世の中に普及するためには、インフラの整備も欠かせません。いつでもどこでも、手軽に、そして安全に水素が補充できる。そんな水素社会の実現に向けた取り組みを、今回は「水素ステーション」の側から見てみましょう。

1 水素ステーション、首都圏では10ヶ所が稼働中

水素ステーションとは、その名の通り、水素を補充・充填する設備・施設のこと。ガソリンスタンドの水素版、と考えていただければ、イメージしやすいでしょう。しかし、ガソリンと水素は、全く異なる性質を持っています。互いに交じり合わないことを例えて、「水と油」といいますが、現在稼働しているガソリンスタンドをそのまま水素供給施設として流用する、ということは、まず不可能。「水素とガソリン」は、やはり「水と油」なのです。

安全に、そして便利に水素を利用するためには、既存のガソリンスタンドのように、水素ステーションを日本中いたるところに建設しなくてはなりません。そのためには、技術開発、安全性の確認など、きたるべき将来に備えて数多くの検証を行う必要があります。

現在、首都圏には10ヶ所の水素ステーションが開設され、稼働しています。運営しているのは、国内の大手企業や企業共同体です。これらの水素ステーションでは、それぞれが異なった方法で水素を製造・供給し、様々な技術検証を独自に行っています。

ガソリンを製造するには、原油が必要です。言い換えれば、原油がなければ、ガソリンを作ることはできません。一方、水素は、様々な方法で製造が可能なエネルギーです。たとえば、ガソリンや灯油、天然ガスから水素を作ることができますし、製鉄プロセスで発生するコークス炉ガス(COG)からの副生水素を利用したり、廃棄物を利用したバイオマスエネルギーを活用したり、水を電気分解して水素を作り出すことも可能です。

現在稼働中である10ヶ所の水素ステーションが、それぞれ異なった方法で水素を製造しているのには、ちゃんとした理由があります。どんな方法で水素を製造するのがいいのか、またどのようなメリットがあるのか、あるいはコストを抑えるためにはどうすればいいのかなど、それぞれの企業や企業体が独自の方法で技術検証するためです。

技術検証中であることからも、現在、水素の価格はガソリンと比べると非常に高価です。しかし、水素ステーションが全国に建設された場合、燃料としての水素の価格は、現在のガソリンと同程度になりそうだ、という試算が出されています。誰もが手軽に手に入れられる価格を実現するためにも、それぞれの水素ステーションはお互いに協力し合い、情報交換しながら、将来の水素社会の実現に向けた研究開発を行っているのです。

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2 万博のFCHV-BUSに水素を供給し、ノウハウを蓄積

JHFC愛・地球博水素ステーション/瀬戸北

JHFC愛・地球博水素ステーション/瀬戸北

2005年愛・地球博では、会場の間の移動手段として8台の燃料電池バスが運行しました。このトヨタ自動車と日野自動車が共同開発したFCHV-BUSに燃料となる水素を供給するため、「水素ステーション」も2ヶ所開設されました。それが「JHFC愛・地球博水素ステーション/瀬戸南」と「JHFC愛・地球博水素ステーション/瀬戸北」です。

瀬戸南では、天然ガスから水素を製造。瀬戸北では、コークス炉ガスを精製し、水素を製造。それぞれ異なった方法で、純度99.99%以上の水素を作り出します。2つの方式が採用されたのは、水素供給の安定性のため。同じ場所に異なる方式のステーションを2基建設したわけです。

ディスペンサー(供給装置)のホースは2本。1本は、バス専用のホース。もう1本は、乗用車用。見た目は一般のガソリンスタンドのようですが、たとえばこれらのホースは特殊な金属製で、水素供給用に特別に開発されたものです。ディスペンサーの後ろの敷地には、水素を製造・貯蔵するための施設が併設されています。

JHFC愛・地球博水素ステーション/瀬戸南

JHFC愛・地球博水素ステーション/瀬戸南

「今回はバス用と乗用車用のホースを間違わないよう、充填カプラーをそれぞれ異なるものにし、バスと乗用車のセレクターなどの安全機構を設けました。1本のホースで十分じゃないか、と思われるかもしれませんが、バスに供給する水素の流量は、乗用車用に比べ大きくなっています。10分以内で供給が完了するよう設計されたものですから」(東邦ガス株式会社・瀬戸南・東馬英治さん)
「バスの停車位置にもこだわりました。白線を引き、そこにバスを停車してもらいます。万博では、ダイムラー・クライスラーF-Cell、トヨタのFCHV も走っていましたので、それらの乗用車にも水素の供給を行いました」(新日本製鉄株式会社・瀬戸北・中谷直一さん)
水素ステーション「瀬戸南」と「瀬戸北」では、万博開催期間中の185日間、のべ6000回の水素供給を実施。FCバスも、のべ100万人の来場者を運びました。今回の万博で、相当のノウハウが蓄積されたと二人は言います。

「万博が盛況だったので、バスはフル稼働で運転。とくに夏休み期間中は、入場者数も増えたのでFCバスは増便を出し、水素ステーションもフル稼働で水素を供給しました。どちらの水素ステーションも順調に運営ができましたし、高圧ガスである水素を扱う上でのチェック方法や、付帯装置の動作も確認できました。大きな収穫だったと思います」(東馬英治さん)
今回の万博での水素ステーションの稼働率は非常に高く、国内はもとより海外でも例のない、実用化された状態に近い運用データが取得できました。世界に誇れるデータを収集することができた点はプロジェクトとしても自負するところです。これらの運用試験結果は、2006年3月開催「JHFCセミナー」で報告される予定です。

また、瀬戸南、瀬戸北の水素ステーションは、万博終了後に解体・撤去され、新たな水素ステーションとして、次年度から稼働する予定です。今回のデータを元に、さらに使いやすく、そして安全な水素ステーションの在り方が、現在も追究されています。

3 水素社会の実現に向け、インフラ側も切磋琢磨

ステーション開所式の様子ステーション開所式の様子

ステーション開所式の様子

今回の万博では、博覧会協会主催の「バックヤードツアー」も実施されました。これは、新エネルギー・省エネルギーを紹介するツアー。瀬戸南・瀬戸北の見学ツアーも行われました。1日に5回、80日以上の水素ステーション見学ツアーが行われ、トータルで3000人以上の見学者が訪れました。専用アテンダントの説明は分かりやすかったと評判で、見学者の反応は上々。水素の持つ危険なイメージを払拭するだけでなく、実際に稼働している水素ステーションを自分の目で見て確かめることで、水素に対する正しい知識と理解を得ていただくことができました。

「万博で水素ステーションをフル稼働させたことで、技術的には、いける、という手応えを感じましたね。将来の水素社会に向けて、JHFCの枠組みの中では企業間の垣根を超え、これからも切磋琢磨しながら、研究開発を続けていきます」(中谷直一さん)