インタビュー第5回 日本車メーカーの一人勝ちと思ってはいけない。みんなで底上げすることが大切です。

燃料電池車を街中で走らせ、様々なデータを収集する実証試験は、日本のみならず、海外でも行われています。では実際、どの国で、どのような実証試験が行われているのでしょうか。海外におけるFCV実証試験の動向を、財団法人日本自動車研究所(JARI)丹下昭二さんに伺いました。

1 北米における実証試験~ゼロエミッション法と自動車メーカーの本音
2 ヨーロッパの実証試験~それぞれのメーカーがそれぞれの考え方を主張
3 アジア・オーストラリアの実証試験~見習う点もあり、メーカーのPRもあり

北米における実証試験~ゼロエミッション法と自動車メーカーの本音

他の国のプロジェクトは、どんな内容なのでしょうか。
丹下昭二

JHFCのように、FCVの実証試験を行っている国はいろいろあります。では、その内容を具体的にお話しましょう。

まず北米ですが、99年4月に「カリフォルニア燃料電池パートナーシップ(以下、CaFCP)」が発表されました。これは、カリフォルニア大気資源局が主導して進められているフリートテスト(実証試験)です。実際のオープニングは00年の11月。参加している自動車メーカーはダイムラークライスラー、フォード、GM、フォルクスワーゲン、ホンダ、ニッサン、トヨタ、現代自動車。エネルギー供給会社はBP、Shell、ChevronTexaco、 ExxonMobilです。

このプログラムは03年に終了する予定でしたが、07年まで延長されることになり、05年からはACトランジット社、サンタクララバレー交通局、サンライン・トランジット社による7台の燃料電池バスの実証試験も加わりました。

またカリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネッガー氏が、04年4月に「水素ハイウエイネットワーク構想」を発表しました。これは、2010年までにカリフォルニア州に250ヶ所、20マイル毎に水素ステーションを建設し、少なくとも2000台のFCVを走らせようというものです。CaFCPは、これもサポートすることになっていますが、現状は多少遅れ気味のようです。

JHFCとCaFCPとの違い

CaFCP広報活動の様子(FCVのラリー)

CaFCP広報活動の様子(FCVのラリー)

JHFCは、実はこのCaFCPを参考にして誕生したものなんです。日本より先にスタートしたわけですので、どのように、何を、いくらぐらいの資金で行っているのかなど、JHFCが立ち上がる前に、詳しく調査しました。

驚いたことに、アメリカではCaFCPとして実証試験のデータを取らないんですね。場所や建物を提供して、各メーカーに集まってもらうだけだったんです。イベント的な要素が強いというのでしょうか。CaFCP自身が、データを収集することはなかったんです。非常にもったいないと思いましたね。ならば、日本でこのような実証試験を行う場合には、しっかりとしたデータを取り、それを公表するべきだと考えたのです。つまり、実証試験を行うJHFCには、データをまとめる役割を持たせ、実証試験の結果をハッキリさせていくことにしたわけです。

当初、自動車メーカーは難色を示しました。それぞれのデータが比較されるのではないかと心配したようです。ですが、水素インフラが関わるものをゼロから作っていくためには、実証試験のデータというのは非常に貴重なんです。

後発だった日本のJHFCが実証試験による様々なデータを収集していることから、アメリカのエネルギー省でも、「管理下における水素利用車及びインフラ実証試験・評価プラグラム」を発表し、国内外の自動車メーカーやエネルギー供給会社、アメリカの大学や国立研究所などに参加を呼びかけました。この結果、5 つのチームが実証試験を行うことになり、04年春には具体的な内容が明らかにされました。

ところが05年になっても、日本の3社のメーカーとエネルギー省の間で、具体的な取り組み方についてまだ合意に至っていないのです。日本車メーカー側の言い分は「JHFCと同じデータを出すのであれば参加できる。それ以外のデータは出せない」という言い分のようです。

FCVの開発レベルは日本車メーカーの方が進んでいますから、新たに詳細なデータを出せば、それを海外のメーカーに取られるかもしれない、という不安があるのでしょうね。メーカー同士の競争ということを考えれば当然であり、仕方がない、といえば、仕方がないのかもしれません。

2004年11月にワシントンDCにオープンした、ガソリンスタンドと併設したShell水素ステーション。一番手前のブルーの車がFCV。

CaFCP広報活動の様子(FCVのラリー)

その5つのチームのうち、GMはShellと連携して03年から実証試験を開始していましたが、04年11月にワシントンDCにアメリカ国内で初めてガソリンスタンドと併設したShell水素ステーションを作り、実証試験にも活用しています。

一方カナダでは、バンクーバーを中心にフォードのFCV4台による実証試験プロジェクトが05年5月からスタートしています。予算は5年間で800万カナダドル。またバンクーバー~ウイスラーで開催される2010年冬季オリンピックに向けて、ウイスラーからヴィクトリアまでの「ハイドロジェン・ハイウエイ」構想も展開されています。

アメリカではゼロエミッション法の影響が大

このように北米、特にアメリカは、次々と実証試験が行われ、ダイナミックに動いています。それは、やはりゼロエミッション法(ZEV法)が大きく関わっているからでしょう。アメリカで最初のフリートテストが、カリフォルニアで行われたのも理由があります。ZEV法とは2004年春から施行されたカリフォルニア州独自の法律(=ZEV法)で、自動車メーカーは販売台数に対して決められた割合を、排気ガスの出ないクルマ(=ZEV)にしなければならないという厳しいもの。これを満足させなければ、カリフォルニアでクルマを売ることができないのです。

この法律の解釈では、フリートテストに出したものは、販売されたものとして見なされ、さらにFCVは1台で40台分のZEV車と計算されますので、自動車メーカーとしては数多くのFCVをフリートテストに出さなければならないわけです。08年モデルまでに、アメリカのビッグ3(GM、フォード、クライスラー)と日本のメーカー3社は250台のFCVを出すと更なるインセンティブがあるので、米国での動きが活発になってきているのです。いかにZEV法を満足させつつ、メーカー同士の競走の中で、それ以外のクルマの販売シェアを確保するか。実証試験を積極的に行っている自動車メーカーの本音は、そこにあるんですね。

2 ヨーロッパの実証試験~それぞれのメーカーがそれぞれの考え方を主張