ドライバーは速度計による速度情報のほかに、自分の印象による速度判断を使って車を運転しています。この人間による速度判断はメンタル・スピードメーターと呼ばれ、周囲の景色の流れ方、加速や減速による平衡感覚の変化、エンジン音や風切り音、使用しているギヤ、アクセルペダルの踏み方など、いろいろな手がかりによって情報を得ています。ドライバーが加速、減速したり、とくに高速道路の出入りには、速度計よりもメンタル・スピードメーターを使うことが多いようです。

ところで、このメンタル・スピードメーターは果たして正確なものなのでしょうか。英国の研究によれば、残念ながら、かなり不正確、不安定なもののようです。
実験は、8名のベテランドライバーにより、速度計を目隠しにした状態で行われました。まず、最初の実験では、ドライバーがある速度で走行しているときに、半分の速度に減速するよう指示されました。ところが、ドライバーは指示された速度よりもかなり高い速度にまでしか減速しませんでした(図1)。たとえば、時速80キロから40キロに減速するよう指示されたドライバーは、実際には53キロまでにしか減速しませんでした。すなわち、減速時のメンタル・スピードメーターは約30%狂っていたことになります。次の実験では、逆にある速度から2倍の速度に加速するよう指示されました。ところが、今度はかなり低い速度にまでしか加速しませんでした。たとえば、40キロから80キロに加速するよう指示されたドライバーは61キロまでしか加速しませんでした。つまり、加速度のメンタル・スピードメーターは約25%狂っていたことになります。

また、別の研究によれば、ドライバーが高速道路などを連続走行すると、速度感が低下する「速度順応」と呼ばれる現象がおこります(図2)。このため、高速道路を100キロで1時間走行してきたドライバーが、50キロに減速してインターチェンジから出ようとした場合、メンタル・スピードメータに頼ると75キロものスピードで一般道路に入ってしまう可能性があります。
このように、メンタル・スピードメーターは誤差が大きいようです。ドライバーはメンタル・スピードメーターだけに頼らず、速度計によって速度を確認する習慣を身につける必要があります。

同じ道路であっても、路面に視覚パターンを描くことによって、速度感を変化させることができます。たとえば、カーブに入る前の道路に、指数関数的に間隔が狭くなる黄色の横縞パターンを描き(図3)、設置前と設置後の走行速度を測定したところ、平均速度が約23%低下し、事故件数が激減したとの報告もあります。これは、ドライバーのメンタル・スピードが不正確なことをうまく利用した例といえるでしょう。