水素のはなし第7回 水素の貯蔵方法

燃料電池で電気を生み出すためには、水素を搭載しなければなりません。たくさん水素を貯めていれば、それだけ長時間、充填せずに動かすことができますが、動かす機械そのものの大きさの限界もあります。ですからいかに効率よく、小さな容量にたくさんの水素を貯めることができるか、常に研究が進められているのです。ここでは、代表的な水素の貯め方と、それぞれのメリットを紹介していきましょう。

1 気体で貯める方法

■高圧タンク

高圧水素タンク
高圧水素タンク
高圧水素タンク

2007年2月に行なわれたFC EXPOに出品された高圧水素タンク。見た目も頑丈そうだ。

アルミを使ったタンク

新材料として軽くて丈夫なアルミを使ったタンクも。

これは燃料電池車でおなじみのやり方で、水素を気体のままでタンクに貯めます。水素は軽い=密度の低い気体ですから、限られたタンクの容積内にできるだけたくさん積むために、ギュウギュウに圧縮して詰め込まなければならないので、高圧タンクと呼ばれます。どのくらい高圧なのかというと、何もしない状態を1気圧として、現在多くの燃料電池車で使われているタンクの規格が350気圧(35MPa)ですから、350倍も圧縮して詰め込んでいるわけですね。ちなみに従来のガスタンクの内圧が150気圧(15MPa)ですから、それと比べても倍以上です。また、それをさらに倍にした700気圧(70MPa)の高圧タンクも開発され、既に実用化のメドが立っています。70MPaのタンクを搭載したFCVの航続距離は400km以上になるといわれ、ガソリン車とさほど遜色はなくなります。

メリットとしては、気体のまま貯めることで、燃料としてすぐに使えることが挙げられます。他の方法に比べ、容器の大きさに対して貯められる量が少ないという欠点はありますが、700気圧のタンクの登場で、今では少なくともそう大きなデメリットとは言えなくなりました。

しかしあまりに圧力が高くなると、水素漏れや爆発といった危険性も高まります。タンクも高圧に耐えるため分厚く丈夫なものにせねばならず、余計に容器が大きくなるというジレンマもあります。ちなみに強度や衝撃耐久性をチェックするため、水素を充填したタンクをライフルで射撃するなんてテストも行なわれているとか。

また充填や運搬、貯蔵の過程で、水素を扱うこと自体に危険も伴いますから、安全のために法的な規制もあり、それが水素ステーションなどのインフラ整備への課題ともなっています。

■低圧タンク(ボンベ)

低圧水素ボンベ

クリモトの燃料電池電動カートと車イスに搭載されている低圧水素ボンベ。

高圧タンクほどに詰め込まず、低い圧力でタンクやボンベに貯める方法です。10気圧(1MPa)以下であれば現行法には抵触しないため、新たなインフラ整備が特別に必要でないというメリットがあります。しかし、貯められる水素の量が少ないので、あまり長時間連続で動かす用途には向きません。現在、電動カートや車イスといった、それほど遠出を必要としない乗り物で、実証実験が行なわれています。

液体で貯める方法

水素を液体にすると、気体の状態の1/800の体積になります。そこで液体の状態で搭載してしまおうというのが、液体タンクの考え方です。そうすると、同じ大きさの容器の中に、気体の状態で搭載するよりたくさんの量を貯めることができます。

ただし気体を液体の状態にするには超低温に冷やさねばならず、水素の場合はマイナス253度です。そこまで冷やすだけでもものすごいエネルギーが必要になる上に、その状態を保つのもたいへんです。タンク内の温度が上がるとどんどん気体になっていきます(この現象を「ボイルオフ」と呼びます)から、断熱が万全でないと、タンクが爆発する恐れもあります。

700気圧の高圧タンクが実用の粋に達してきた昨今、わざわざ液体で貯める意義は薄れてきていますが、BMWやGM、GM傘下のオペルなどが、液体水素タンクを開発して実用評価を行っています。BMWは、貯蔵開始後からボイルオフが始まるまでの時間を3週間程度まで延ばすことに成功したといい、その実用性が注目されています。

金属に吸わせる方法

マイクロMHタンク
マイクロMHタンク

FC EXPOに出品された、日本製鋼所の「マイクロMHタンク」

高圧水素と水素貯蔵合金のハイブリッド・タンク

こちらもFC EXPOに出展されていた、高圧水素と水素貯蔵合金のハイブリッド・タンク

水素吸蔵媒体と呼ばれる金属に水素を吸い込ませて貯蔵する方法です。

金属はそれぞれ独自の結晶構造を持っていて、固い金属といっても、ものすごくマクロに見ると、分子と分子の間にはスキマがあります。大きな箱の中に野球のボールを詰めたところをイメージしてください。箱いっぱいに詰めても、ボールとボールの間には結構スキマがありますよね。対して水素の分子は鉄よりもはるかに小さいので、野球のボール同士のスキマにパチンコ玉を詰めていくように、金属に水素を貯めることができるというわけです。そのように水素を取り込む特性を持つのが水素吸蔵合金です。水素を取り出すには、外部から熱を与えてやればよく、乗用車では燃料電池からの廃熱を利用可能です。

水素吸蔵合金を使うと、水素を分子状態で貯蔵するため、気体の1/1000かそれ以上と、液体水素よりもコンパクトに、省スペースで貯蔵できます。また、超低温にする必要もありませんし、圧力も低いので安全性も高いというメリットもあります。

ただし欠点は重いことです。400kmの航続距離を実現するためには4kgの水素が必要になりますが、それを吸蔵するためには計300kgの合金が必要といわれています。これでは重すぎて、とても乗用車には搭載できません。現在、軽量化を目指してより高効率な水素貯蔵合金材料の研究が盛んに行われていますが、まだまだ実用には遠いのが現状です。

一方、電力消費量の少ない小さい機器であれば、それなりに軽くできます。2007年2月のFC EXPOでは、日本製鋼所から携帯電話などモバイル機器向けの「マイクロMHタンク」が出品され、注目を集めていました。インフラに関しては店頭で水素充填を行なえるようにする案や、家庭で水を電気分解して水素を作って充填するための装置も参考出品されました。ワンセグなど次世代の携帯電話はますます電力消費量が多くなり、対して充電にはなかなか時間のかかるものですから、水素の形ですぐに充填できる燃料電池の特性を生かした面白いアイディアと言えます。

水素そのものでなく、原料で貯める方法

FC EXPOに出展された、栗田工業株式会社の、液体を使用しないDMFCモデル。 液体メタノールに比べて安全性と携帯性に優れ、また従来必要だった水が不要になり、実にシンプルなシステム構成が可能になる

気体ではタンクが大きすぎ、液体では温度管理が厳しすぎ、吸蔵合金では重すぎる…水素そのものを搭載するには、それぞれの方法で欠点があります。そこで、水素そのものを搭載するのではなく、水素を作り出す原料の一つで、比較的扱いやすいメタノールを貯めて、随時水素に改質していこうというのが、「メタノール改質方式」です。

高圧水素よりもメタノールのほうが安全で扱いやすく、インフラの整備という面でもメリットはあります。しかし、700気圧のタンクも開発されるようになった昨今、改質装置を余計に積まなければならない点、メタノール自体を製造する効率や、メタノールから水素に改質する際の効率などを総合的に考えると、今やメタノール改質方式にはそれほどのメリットを見出しにくいというのが正直なところです。

以下は水素と関係ない話になりますが、メタノールを直接の燃料にした「ダイレクトメタノール方式」という燃料電池の研究も進んでおり、こちらは小型化が可能なことから、将来、現在のバッテリーの代わりにノートパソコンやデジタルカメラなどのモバイル機器に使われることが期待されています。