水素のはなし第6回 水素ステーションの普及に向けた、現状の問題と将来の課題

水素を安全に、そして便利に利用するために、技術開発や安全性の確認など、JHFCではきたるべき将来に備え、実際の水素ステーションによる数多くの検証を行ってきました。将来水素ステーションが普及するために、これまでの検証から浮かび上がってきた問題と、今後に向けた取り組むべき課題について紹介しましょう。

1 水素ステーション運営から得られた「大きな財産」

横浜・大黒ステーション

横浜・大黒ステーション

現在、首都圏には10ヶ所の水素ステーションが開設され、稼働しています。運営しているのは、国内の大手企業や企業共同体。これらの水素ステーションでは、それぞれが異なった方法で水素を製造・供給し、様々な技術検証を独自に行っています。今回は横浜の大黒町で水素ステーションを運営しているコスモ石油(株)を例にとり、3年間の運営実績を具体的に振り返ってみます。

運営日数は、3年間で707日、充填回数は1,216回、充填量は1,525kg(16,967m3)に上ります。運営期間中は燃料電池車に水素を供給するだけでなく、水素ステーションのエネルギー効率の改善にも取り組んできました。ユーティリティの低減、ヒートロスの低減、水素改質率の向上等により、この3年間で、ほぼ5%程度の改善が図られています。

今後もエネルギー効率を改善するための取り組みは、継続的に行われる予定です。
運営中のトラブルについては、機器の不具合による充填休止が2004年8月に4日間ありました。これは緊急離脱カプラーのOリングからの水素漏れです。通常のガソリンスタンドのような連続運転と異なり、水素ステーションの場合は装置に対するストレスがかなりかかっていることが検証されました。このトラブルについては、水素ステーション側各社で情報を共有し、対応に当たっています。また設備への安全性や信頼性は、現状得られている知見に基づく設備の問題の解決に加え、長期使用における新たな課題についても、まだ残されているという認識も生まれました。

大黒町の水素ステーションでの運営例を挙げましたが、これを含め、JHFCのプロジェクトでは、平成14年から燃料電池車への充填を行う14基の水素ステーションを建設・運用してきました。平成17年までの累積で約8400回の充填を実施し、約23000kgの水素を供給。その中で水素供給に伴うトラブルの原因を調査し、対策を講じ、その情報をステーション間で共有することにより、すべての水素ステーションを安全に運用してきました。そこで得られた検証結果は、今後の実用化段階の水素ステーションの技術開発に活かす「大きな財産」といえるでしょう。

2 水素ステーション普及のために必要なもの

では今後、水素ステーションを普及させるためには、どのような取り組みが必要になるでしょうか。

今後の普及に向けては、建設コストや運営コスト、保守コスト等のさらなる低減を図り、水素ステーションがビジネスとして成立するための「環境整備」が必要になってくるでしょう。

そのためには、水素ステーション関連の規制緩和を、より推し進める必要があります。たとえば水素ステーションの設置にかかる規制については、2005年3月に改正され、高圧ガス保安法、建築基準法、消防法が見直されました。これにより、水素ステーションの設置可能地域が拡大し、既存の移動体燃料供給拠点、すなわちガソリンスタンドを水素ステーションとして活用がすることが可能な状況になっています。この規制の見直しにより、水素ステーションのコストダウン、もしくはビジネスとしての魅力の基盤が整理されたといえるでしょう。

今後の水素ステーションの普及について考えた場合、当然、その最大要件は燃料電池自動車の普及であることは間違いありません。しかしそれにも増して、水素ステーションを普及させるという観点でいうならば、水素ステーションのビジネスが魅力あるものになることが、絶対条件だろうと思われます。そのための技術開発やさらなる規制の見直し、コストダウン等が、それぞれ進められていく必要があるでしょう。

3 既存SSとの併設によるコストダウン

一つの例を挙げてみましょう(※サービスステーション(S.S.)数の推移図)。これは年次別に、横軸が1959年からの年次で、縦軸がガソリンスタンド(SS)の数です。このグラフから読み取れるのは、高度成長期のモータリゼーションの拡大とともに、1955年から、ほぼインフラが行き届いたといわれる1975年まで、およそ20年かけてSSが普及してきたという歴史です。燃料電池自動車の燃料タンクは、高圧の水素を充填した高圧水素容器。その安全性を検証するための実験も、あらゆるシチュエーションを想定して行われています。

これを水素ステーションに置き換えるのは早急ですが、ガソリンスタンド事業が、必要性や魅力が増大した結果、20年という歳月をかけ、インフラとして整ってきたことを考えると、水素ステーションがインフラとして整備されるためには、それなりの年月が必要になってくるのかもしれません。しかし、すでにインフラとして整備され稼働しているSSを活用することで、その年月を短く、またコストを抑えることも可能になります。

現在、全国に約5万ヶ所のガソリンスタンドを中心とした、移動体に対する燃料供給ステーションがあります。水素ステーションの併設による拠点の活用であれば、原燃料の供給が可能となり、コストの低減効果、特に用地費や運営費については、かなりのコストダウンが見込まれます。

さらに今後、ガス事業法、高圧ガス保安法、消防法で規制緩和が進められ、それが安全性の検証や基準等の策定につながった上で、コストダウンやビジネスとしてのバックグラウンドになってくれば、水素ステーションの普及も加速すると考えられます。

サービスステーション(S.S.)数の推移

4 供給能力の増大も大きな課題

水素充填の様子

水素充填の様子

今の水素ステーションの水素の供給量は、まず、オンサイト型の水素製造が、1時間に30~100Nm3という供給量です。これは、換算すると、一日20台から数十台の供給量にしか相当しません。一日に200~400台の供給を可能にするには、1時間300Nm3以上は必要となり、今後は供給量の増大についても考えなければなりません。

さらに水素ステーションの高度利用という観点から、周辺地域への水素、熱、電力の供給なども含め、水素ステーションの有効活用も、普及のための重要な要素となってくるでしょう。

一方、オフサイト型水素についても、現在のカードルやローダーによる供給レベルでは一日数十台という状況です。これをビジネスとして成り立たせるには、製油所からの供給、水素の導管など、何らかの大型水素供給手段を検討する必要があるでしょう。導管供給については、第2期のJHFCで実証してみてはどうか、という提案がすでに挙げられています。

またビジネスとして魅力あるものに変えていくには、水素ステーションと燃料電池を組み合わせることで、近隣や周辺へ熱電を供給するということも考えられます。

5 今後に向けた取り組みと新たに生まれた課題

第1期のJHFCのプロジェクトにより、水素ステーションにおける様々な課題が浮かび上がってきました。この経験と知見を踏まえ、第2期に向け、取り組むべき課題も見えてきました。まず一つは、技術基盤のさらなる確立です。コストダウンやエネルギー効率のアップ、そして安全性・信頼性の向上、そして、燃料電池自動車とのインターフェースをいかにスムーズにするか、ということです。

二つ目は、水素ステーションのビジネスを拡大させていくためのシナリオの検証です。ガソリンスタンドとの併設はもちろん、地域のエネルギー拠点としての活用についても、その可能性や有効性を検証する必要があります。

三つ目は、さらなる環境基盤の確立です。普及時の運用を考慮した規制の再点検、そして、安全基準の策定が、水素ステーション普及のために必要不可欠な要素となるでしょう。

JHFCでは、第二期プロジェクトとして、これらの課題について今後も様々な角度から検証し、水素社会の実現を目指していきます。