水素のはなし第3回 正しく知りたい、水素の“安全性”

化石燃料に代わる「これからのエネルギーの主役」として期待される「水素」。水素が暮らしの中で身近に使われる「水素社会」を目指すためにも、誤った情報や曖昧な知識に頼らず、まずは水素の性質を正しく理解しましょう。

1 「危険」という水素のイメージ、実は“誤解”

気体のなかで、最も軽い水素。18世紀半ばにその存在が確認されて以来、「空気より軽い」という性質を活かす研究が進められ、20世紀前半には気球や飛行船に盛んに利用されていました。ところが1937年(昭和12年)にアメリカで起こった大型飛行船ヒンデンブルグ号の炎上事故を機に、水素を危険と考える人が増え、水素ガス飛行船は姿を消してしまったのです。しかし最近では、この事故は水素の“爆発”ではなく、外皮に使われた引火性の高い塗料と燃料の油による“火災”だったという説が有力。「水素=危険」というイメージは、いわば誤解だったことが判明しました。確かに水素は、空気と適度に混ざると燃えやすいという性質を持っていますが、それは燃料としての好条件ともいえます。燃料である以上、取り扱いに注意が必要なのは、ガソリンや灯油、天然ガスやLPガスも同じ。つまり、それらの燃料と水素は安全性において大差なく、日常的に安心して利用できるものと言えるのです。

実は、日本では天然ガスが主流になる前の昭和20年代から40年代にかけて、都市ガスに水素と一酸化炭素の混合ガスが使われていました。一般家庭で、毎日の暮らしの調理や風呂焚きに水素が使われていたのです。この頃、都市ガスが安全なものとして日本の暮らしに馴染んでいたことからも、水素は正しく使えば決して危険ではないことがおわかりいただけるでしょう。

2 下に溜まらず、上方に拡散してしまう水素

普段何気なく接しているガソリンやLPガスと比べても、水素には安全性の高さにつながる性質があると理解できます。 たとえばガソリンと比較してみると、ガソリンは漏れると地面や床に広がっていくため、万一火が着いてしまうと燃える範囲も広くなっていきます。 ところが水素は、燃えなければ大気中に拡散するだけですし、万一火が着いても垂直に炎が出るだけで、横に燃え広がっていくことがありません。

またLPガスは、空気より重いため漏れると下の方に溜まって濃度が高くなっていくことから、なんらかの火が引火する可能性も高いといえますが、水素は軽く、しかも拡散スピードが非常に速いため、万が一漏れても、まっすぐ上に瞬時に立ちのぼって拡散してしまうのです。水素が爆発するのは、たとえばタンクのように密閉された空間に水素と空気が最適な比率で混ざり合い、そこに火が着くような、非常に特殊な条件が揃った場合に限られますから、日常的な場面で爆発が起こる可能性は低いといえます。

3 さまざまな実験を行い、安全対策を追求

もちろん、なにごとにも“絶対”はありませんから、水素を社会や暮らしに取り入れるためには安全対策に万全を期す必要があります。 燃料電池自動車の研究開発においても、さまざまな角度から水素の安全確保に関する取り組みが厳しく検討されています。

燃料電池自動車の場合、まず第一に、なんらかの原因で水素が漏れて爆発することがないか、という検証が必要です。 それはどんな条件で、どんなふうに起こるのか。検証のためには爆発実験が不可欠であるため、衝撃に耐えるよう壁厚が1メートルもある特種な建物を造り、その中でさまざまな衝突実験や火災実験を繰り返し行っています。

たとえば、タンクの水素を漏れさせて車内に充満させ、火をつけてその影響を調べる実験。この結果、ガラスが割れてしまうような大きな爆発は水素濃度が40%程度にまで達して初めて起こることを実証。それ以下の濃度では、火を着けても、一瞬パッと明るい光が出て水素は燃えきってしまい、テストのために車内に吊るした紙片も単に飛ばされるだけで、燃えることはありませんでした。

また燃料電池自動車は350気圧という高圧で水素を積載しているため、万一タンクが損傷した場合の影響も気になります。 車の場合、走行中に交通事故に遭遇することも十分に考えられるからです。 そこで、タンクに穴を開け、吹き出した水素がどのくらいの距離まで到達するか、火がついたら炎がどれくらいまで伸びるのか、などを検証。さらに犯罪に対する備えとして、タンクに銃弾を撃ち込む実験も行われています。 これらの実験では、タンクに穴があいた場合、水素は漏れるものの爆発する可能性は極めて低いという結果が得られています。

自動車本体ばかりでなく、駐車場などの設備の検証も重要です。 地下駐車場や車庫などはある程度密閉された空間であることから、駐車中の燃料電池自動車から水素が漏れてしまった場合を想定して、安全対策を講じることが必要。 十分な換気設備を設けるのはもちろんのこと、たとえばファンを回すモーターにも配慮し、火花の出にくい「防爆仕様」を用いることなどが考えられています。

現在稼動している水素ステーションにも、そうした試験や検証をもとにした安全のための工夫が、随所に施されています。 たとえば、水素を車に供給するためのディスペンサー。上方に拡散する水素の性質を考え、屋根には空気を外側に逃がすよう傾斜がつけられ、照明は「防爆仕様」になっています。 また車に水素を供給する際、必ず車体にアース線をつけるといったこともきちんとマニュアル化されています。 将来的には、ディスペンサーや車体などの構造的な改良により、自動的に静電気を逃がすようなシステムが開発されるかもしれません。

このように、水素の安全性確保のため、現在、さまざまな研究や試験が行われています。 それらの結果を踏まえ、法整備や規格づくりまで含め、水素を身近に安心して使っていただくための安全対策が徐々に整ってきています。